PRESIDENT社長ブログ

インバウンドのある風景

関西エアポート株式会社の公式発表で、平成30年12月には135万人の外国人が関西空港の国際線を利用したらしい。1日4万人あまりの離着陸。入国と出国が半々と仮定すると、毎日2万人が関空から大阪へと上陸している。

わが岸和田市の人口が20万人弱であるから、10日間で岸和田市の人口相当の外国人が来訪していることになる。

わたしが使う最寄り駅は南海本線春木駅。この駅には関西空港からの急行が必ず停まる。会社から大阪市内に向かうその時は、時間帯に関わらず訪日客の大型スーツケースとの格闘になる。座席の足元に置かれると通路のまんなかあたりまでを占拠して、つり革を持つのも前を通るのも一苦労。そして終点難波を降りると、人の群れから日本人を探すほうが難しいと思える、そんな風景はごくあたりまえになった。

昨今の関西経済の活況は、インバウンドの来訪者のおかげも大きいだろう。大阪はもはや世界有数の人気都市になったのだ。アジア人が大半を占めるなか、国別では中国人、韓国人、台湾人がトップ3らしい。

ある1月の新幹線車中のこと。スーツケースよりはるかに小さな、彼らの携える新兵器の威力を目の当たりにした。

新大阪から飛び乗って名古屋に向かう自由席。ビジネスマンとインバウンド観光客が入り混じる喧騒の車内にそのチャイニーズおばちゃんはいた。小学生くらいの男の子とともに、大きなスーツケースを転がしている。

新幹線に乗るのは初めてらしく、座席の確保におおわらわ。なんとか三人掛けの真ん中席を前後に2席ゲットするや、次には息子と隣どうしに座るために黒光りする物体をとりだした。

小さいマシンを覗き込むように、まずはおばちゃんが話しかける。その腕をぐっと突き出してビジネスマンの耳元にやると、話した中国語が日本語になって発音される。突然のできごとに茫然とするビジネスマン。雰囲気を察した通路側の人が後ろの真ん中席に移動して、親子は無事隣どうしに。

さて、そこからというもの、通路側に残ったビジネスマンに対し、矢次早に質問を繰り出すおばちゃん。ほんとうに何かを尋ねたいのか、その翻訳機がうれしくて仕方ないのか、はたまたその両方か。

「この新幹線はどこまでいきますか」。「次の駅まで何分ですか」。「今日はいい天気ですね」。ビジネスマンはとなりのおばちゃんからマシンのしゃべる日本語を聞かされ、その機械に向かって日本語で話す。おばちゃんは中国語の翻訳を聞いてしっかりうなずく。

「ちょっと恥ずかしいな」。そうつぶやいたビジネスマンの言葉もそのまま翻訳されたようだ。「恥ずかしがることはないですよ」。おばちゃんの中国語は、またマシンを通じて日本語で発音される。「この機械はあなたの日本語を中国語にしてくれるのです」。ご丁寧にそんな説明も翻訳してくれるすぐれもの。京都を通過しても新兵器でのインタビューは延々と続くのだった。

吹き出しそうになるのをこらえながら、わたしが目撃したのは最新鋭の翻訳機にも勝る、好奇心と生活力の塊のようなおばちゃんの生身のコミュニケーション能力だったのだ。

むむむ。負けるな、ジャパニーズビジネスマン。われらも負けずに世界に羽ばたかなければ。後ろ髪をひかれるように、どうぞ良き旅をとつぶやいて、わたしは名古屋駅で降りた。

 

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